***金の葡萄畑***

 ケフカを葬った後、セッツァーは一人、また宛てもなくファルコンで旅に出た。ファルコンをゆったりと流しながら甲板で眼下にある風景を眺めるのが彼にとって優雅なひとときでもあった。
 だが、世界が崩壊した後の地上にはあまり綺麗な彩を見る事は殆どない。そんな中、一際目立つ色を放った地があった。
 セッツァーは飛空挺をその付近に止めて、上から見えた黄金の畑に立ち寄った。
 そこは見た事もない濃い黄金色をした葡萄畑。太陽の光を浴び燦然と輝くこの畑にセッツァーはフィガロ王の金の髪を思い出す。
「また会おう!」と別れの挨拶を感慨深く交わした嘗ての仲間達。だが実際離れてしまえば、それぞれ元の生活に戻る。
「また会おう」なんて言葉は時が経てば社交辞令のような薄っぺらな言葉にさえ思えてくる。
「こんな時期に葡萄の収穫とは珍しいな」
 セッツァーは作業をしている農夫に話しかけた。
 腰を上げた農夫はぎょっとする。無理もない。凡そ葡萄畑には似合わない風貌の男だ。
「は…はい…。この小さな葡萄畑一体は……“神の涙”と言われております。葡萄の色も収穫の時期も他の葡萄とは少し違います、旦那様」
 銀色の長い髪、薄い菫色の瞳。派手だが洗練された衣装と宝石を身に纏ったセッツァーを異国の貴族と思ったのであろう。農夫は頭を垂れ、恭しく言った。
「神の涙か……。オヤジ、この土地いくらだ?」
 それほど広くはない。猫の額ほどとでもいうのだろうか。この初老の農夫一人で充分に管理できるほどの広さだ。
「は?」
 農夫は素っ頓狂な顔をした。
「俺が買い取る。これで足りるか?」
 大量のギルを出すセッツァー。
「は…は…はい」
 農夫は腰を抜かさんばかりに驚く。
「それと、この葡萄でワインを作ってくれ」
「かしこまりました、旦那様」


***細い筆、プラチナ色の塗料***

“こんな用”でもなければ、サマサの村など訪れる事はないな、とセッツァーはストラゴスの家を訪ねた。
「珍しい客人じゃの」
「あ、キズ男! 久しぶりじゃん、どうしたの?」
「どこかに出かけるのか?」
 旅支度をしていたリルムとストラゴス。
「10日後に、色男と筋肉ダルマの誕生日でしょう。二人に肖像画描いて欲しいって頼まれて。明日フィガロへ向けて出発するところ」
「10日後に久しぶりに皆と会えるってのぉ、リルムは喜んでおるのじゃわい」
「あんたは行かないの? 招待状貰ったでしょう。皆、遊びに来るみたいだよ」
「さぁな、気が向いたら行くとするか」
 とセッツァーは煙草をふかす。
「取り込んでるところ悪ぃが、ちょこっと描いて欲しい。小遣いくらいはやるから」
「それって人にお願いする言い方? まったく、あんたっていっつも不躾なんだから。で、何描いて欲しいの?」
 セッツァーは黄金色のボトルを差し出した。
「きれーーい!」
 少し大人びた口調のリルムだが、やはり女の子だ。綺麗なものを見ると素直に喜ぶ。
 クリスタルのボトルに入った金色のワイン。コルクの上にはクリスタルの孔雀が羽を広げていてとても美しい。羽の部分には小さなサファイアの宝石(いし)が散りばめられていた。
「このボトルに描いて欲しい。女たらしの王様を」
「ふ〜ん」
 とリルムはにやりと笑う。
「クールなあんたが、こんな凝った事するのって面白い。ね、じじい」
「リルムや、子供はそんな事を詮索するもんじゃないぞい」
 ストラゴスはほんのり顔を赤らめて荷造りの続きを始めた。
 セッツァーは、チッと舌打ちをする。
「いいよ、描いてあげる!」
 リルムは急いで部屋から商売道具を出してきた。
「好きな色選んで」
 おもちゃ箱をひっくり返したような彩り鮮やかな塗料がたくさんあった。
「このプラチナ色、一色でいい。筆は細いやつで頼む」
「さっすがだね、意味もなく派手男やってるわけじゃないんだね。センスいいよ!」
 リルムは早速作業に取りかかった。子供の集中力とはすごいものだとセッツァーは感心しながら彼女の仕事を眺めた。
「できたよ! 色男綺麗に描けたでしょ? 満足?」
「だな。なかなか良い仕事をするな。小遣いだ、とっておけ」
 とギルを渡すセッツァー。だがリルムはその札束を見て少し不満な顔をする。
「1万ギルじゃ足りねってのかよ! ったく、ガキのくせにこんな大金何に使うんだ」
 渋々セッツァーは更に1万ギルを渡した。
「ありがと! 色々と画材道具など金かかるからね」
「おい、その筆貸してくれ」
 セッツァーは、まだ塗料が乾ききってない筆をリルムから取上げ、ボトルの底に何かを書いた。

 


 

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