***黒い箱、銀のリボン***

「陛下、今年もたくさん届きましたね」
 エドガー付きの近衛連隊長、キューイが大量のプレゼントの仕分けをする。
「嬉しいね。マッシュと私にこれだけたくさんのプレゼントが毎年贈られるとは。国民達に感謝だね」
 エドガーは贈り物の山を見て嬉しそうである。キューイは部下を数人使って一つ一つ検査する。万が一という事もあるからだ。
 大量の贈り物の中で一際目立っていた黒い箱に銀のリボン。プレゼントの包装としては目を引く箱があった。
「それは……」
 その包装にエドガーは不思議とギャンブラーの姿を思い出す。
「S・Gと書かれてあります」
「元リターナーの仲間だ。それは私が開ける」
 エドガーは受け取った箱の銀のリボンを解き、丁寧に箱を開く。
 中には真っ白なリリーが敷き詰められていた。ほんのり甘い香りが漂う。エドガーの好きな花だ。
 エドガーは花の香りを嗅ぐと、そっと花の下にあるボトルを手にとった。
「これは!!」
 エドガーは美しき黄金のワインに驚き微笑んだ。クリスタルの孔雀も美しかったが、何よりボトルに描かれたプラチナ色の絵、そしてその底にあった文字。
「陛下?」
「すまないね、あとは頼んだよ、キューイ。これを部屋に置きに行って来る」
 エドガーは家臣達の前では滅多に見せる事のない、まるで少年のような笑顔で私室へと向かった。
 部屋に着くと金のボトルをワイン棚に飾った。ソファーに寛いだエドガーはぼんやりと、そのボトルを眺める。
「これを送ってきたという事は……君は明日こないんだね」
 そっと人知れずついたエドガーの溜め息は窓から入ってきた風に流された。


***白い月***

 昨日は国王生誕の祝いの儀式。貴族や国民達との謁見。その後久しぶりに訪ねてきてくれた仲間達と楽しいひとときを過ごし、彼等が客室へと戻って行った後、同じ日に生まれた双子は二人きりで誕生日を祝った。
 マッシュとおやすみのキスをかわした頃は、もう既に月が白くなっていた。エドガーは漸く一人になった。私室の大きなソファーに寝そべって開け放たれた窓の外をぼんやりと眺める。
「白い月か…」
 もう夜が明けようとしていた。
 すっかり遅くなってしまったとエドガーは重い腰を上げたその時、扉が開かれたようだ。バルコニーから吹く風がエドガーの長い髪を乱した。
「王様はお疲れか?」
「セッツ!! ノックくらいしてくれよ」
 エドガーは突然現れた訪問者に驚く。
「ある街でカードに熱くなってよ、来るのが遅くなった」
 そう言ったセッツァーは、どさっとソファーに身を預けた。
 エドガーは行儀良くまたソファーに腰を下ろす。そして「ワインありがとう」と横にいるセッツァーの顔を見ないで言った。
「飲んだか? 摘みたての葡萄で、味は美味しくないがな」
 エドガーは漸くセッツァーに顔を向ける。そして小さく首を横に振った。
「あまりにも綺麗なボトルとワインだから飲むのが惜しくて飾ってある」
「あのワインは、これからいくらでも、つくってやれるぜ」
 セッツァーはふぅーと煙草の煙を吐く。
「え?」
 エドガーは小さく驚いたような顔を見せる。
「“神の涙”とかいう小さな葡萄畑だ。名前が俺の好みじゃねぇからよ、買い取ってお前の名前つけてやった。今度その“お前の”葡萄畑に連れて行ってやるよ」
 やや乱暴な口調がセッツァーの照れ隠しと思ったエドガーは、幸せを絵に描きましたと言わんばかりの笑顔をつくる。
「ありがとうセッツ! あの字は君が書いたの?」
 エドガーはボトルの絵を誰に描いてもらったのかは訊かず、単刀直入にボトルの底に書かれている字について訊ねた。
「うるせぇ! この減らず口、こうしてやる」
 セッツァーはエドガーの肩を押し、桜色の唇に自分の唇を重ねた。そしてエドガーの金の髪を掬って耳朶を甘噛みした。
「……い……してる……“ロニ”」
 吐息混じりのセッツァーの低い声にぎょっとエドガーは、菫色の瞳を見つめる。
「セッツ!! 今、何て?」
「うるせぇ!!」
「ねぇ、もう一度、そう呼んでくれないか?」
「バカ! 二度と言うか!!」
 セッツァーは再びエドガーの唇を塞いだ。
 ほんのり煙草の味のするセッツァーの舌先に自身の舌先を重ね。
 エドガーはゆっくりと瞼を閉じた。


 孔雀の羽に散りばめたられたサファイアは王様の蒼い瞳。美しい黄金色をしたワインは王様の髪。
 そしてボトルの底に小さく書かれた文字は王様の秘密の名前。
“CHATEAU-RONI”  

End

 


 

Back