『親愛なる我が友へ
めずらしく船を降りて、あと半日もすれば年が改まろうかという時刻に、滅多に帰らない屋敷でこの手紙を書いている。
ここ数週間、おまえは忙しかったのではないかと、思うが、どうしてた?
義務だ責任だと、自分からしがらみに縛られにいくような気質のお前のことだから、また何かに思い悩んでいるんじゃないかと心配している。
去年の降神節から察するに、越年の聖祭を終えれば、今夜くらいは静かに酒を飲めるんじゃないかと思うが、ぐだぐた考え込んで、美味い酒を不味くしているんじゃないかと思ってしまう。
おまえは、何事も考えすぎるほど考えて、他人のことも自分のことのように考えて、決して中途半端に結論を出そうとしない。俺は、そんなおまえがもどかしくてならない。
・・・もどかしい。
俺は、常に側に居るわけにもいかず、手を差しのべることも叶わない。』
「・・・やめた」
銀色の髪の彼は、一年のうちで数日しか過ごさない屋敷の書斎で、手紙を綴るのを放りだした。青いインクで認めたばかりのそれをくしゃりと丸めて、椅子から立ち上がり、前髪に指を通してかきあげた。
「おまえに『逡巡するな』と言う俺が、おまえのことを『もどかしい』と言う俺が、おまえに会うことを戸惑うなぞ、それこそらしくない」
部屋の入り口に掛けて置いた外套を取り上げて、靴音を響かせて、屋敷を管理する使用人に「出かける」と言い残して、飛空艇へと足を向けた。
「フィガロまで半日弱ってところか・・・」
砂漠の減った今、至近に飛空艇を下ろすことができる、彼はそう目論んで、出発の準備を整えた。
フィガロの着くのは、夜半になるだろうが、それは彼にとって苦にならない。
飛空艇の低い音が、午後の森に響いた。