接吻(くちづけ)が終わった途端。
 こんな場所なのに、そこまで『本気』だったんだ、戯れで終わると思ったのに……と云った意味合いの、エドガーの呟きが聞こえた気がしたが、今更ながらに上がった後悔など、聞き届けてやるつもりは、セッツァーには更々なく。
 薄い布が一枚敷かれたのみとは言え、都合良く出来た褥の上にて蠢かせる手を、彼は止めなかった。
 ……恋人は、付き合う、と言ったのだ、覚悟など決まっている筈、と云うのが、セッツァーの言い分。
 夕焼け色に染まる黄金の海の『波』は、不自然に沈んで不自然に揺らぐかも知れないが、黄金の海の中に沈んでいるのだ、誰からも見えはしないだろう。
 …………見えたりする訳がない、絶対に。
 拝みたくなる程『特別』な豊穣を眺めて、明日、平和が戻って来ることを祈るのが当たり前の人々に、壊れた世界に置かれた方が幸せな背徳なんて、想像も出来ぬだろうことなのだから。
 見えたりなぞ、する訳が。
「何を思ってみたって……何をしてみたって……ああ、結局、変わりゃしないってのにな……」
 一一一一背徳を理解するモノ、それ以外に、今の己達の姿は見えない、そう信じているセッツァーは。
 こうしてみた処で、所詮コレにも意味はない、と薄く笑いながら、エドガーの上下の衣服を、半端に暴いた。
 そこより覗く、何処までも砂漠の民らしくない雪白(せっぱく)の肌に、強く爪を立てて。
 黒い布地の上にたゆとう黄金色の髪を、掻き上げ掬い、恋人の首筋が仰け反る程、強く引いて。
「どうして……お前は、フィガロの王なんだろう…………」
 爪立てられ、髪引かれる痛みに顔を歪めたエドガーに、彼はそう言った。
「…………君は……どうして、君なんだろうね…………」
 表情を歪ませながらも。
 エドガーは、そう答えた。
「……判らない」
「私にも、判らない……」
「何時か、判りたいけどな…………」
「そうだね……。何時か、判りたいね……」
 一一閉ざされていたエドガーの瞳は、何時の間にか開かれていたが。
 肌に爪立てた手を蠢かせたセッツァーに、さわりと頬を撫でられたから、双眸は再び、瞼に覆われた。
「……御免……」
 瞳閉じたまま、不意に、エドガーはそんなことを呟く。
「誰の所為でも、ないだろう? 詫びるのは、俺の方だ、間違い無く」
「それでも……。御免…………」
 呟かれた言葉に、セッツァーが素っ気無い一言を返してみても、エドガーが尚、詫びを語ったから。
 セッツァーは、恋人の黄金の髪を掴んでいた手より、ふっ……と力を抜いた。
 

 

 半端に暴かれたままの服は。
 エドガーの躰にまとわり付いたまま。
 セッツァーは、簡単に胸元を寛げただけで。
 再びの接吻は何処までも素っ気無く。
 長い時を掛けた、愛撫、などと言うものは、そこにはなくて。
 埋(うず)もれた、黄金の海の中。
 解されてもいないそこに、セッツァーは無理矢理、己を突き立てた。
 ……腕に抱いた人より、悲鳴が上がろうが、どうでも良かった。
 血の滑りを感じようが、気にもしなかった。
 唯、繋がることだけが、その時の彼の全てだった。
 抱き締めて、繋がって、満たして、又、抱き締めて。
 何度突き上げても足りなくて、幾度もそれを、繰り返して。
 …………再び、抱き締めて。
 黄金よりも尚黄金色したエドガーの髪を、強く、くしゃりと握り締め。
 膝上に抱き上げた彼を掻き抱いて。
 背も、首筋も仰け反らせる人の胸に、セッツァーは頬を押し付けた。
 

 

 そうして、みて、初めて。
 黄金の海に漂った、恋人の姿に、想い掻き立てられて初めて。
 彼は、判った気がした。
 

 

 その時、彼は。
 この世界を壊そうと思った男を、理解出来た気がした。
 

End

 


 

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