その答えに行き着いた時、俺は、自分で自分を笑った。

草臥れてる上に腹が減り過ぎてて、碌でもないことしか考え付けなくなってるんだと思った。

けど、どんなに笑い飛ばしても、馬鹿馬鹿しい、と捨てようとしても、『答え』は、俺の頭から離れなかった。

人間も魔物も、神が生んだ、と言う根本の部分では同じもの。

その考えの方が、遥かに道理に合うと思えて仕方無くなり、暫くの間、俺は取り憑かれたみたいに考えを巡らせ続けた。

────子供の頃、教会の司祭様に、神は光の源で、魔王は闇の源で、神と魔王は、遥か遠い昔から戦い続けてきた、と教えられた。

本当に、その話が正しければ、魔王──要するにゾーマに従う魔物や魔族を、神が生んではならない。

だって、有り得ない。

神が生んだ魔物達を、大魔王が自身の僕としてしまった、と言うなら判らないでもないけれど、神は、そんなことを見逃すのだろうか。

それとも、神と呼ばれる存在は、この世の全てを遍く司る、と言う定義が間違っているんだろうか。

けど、精霊達は。神を直に知るのだろう、神の僕の精霊達は、神とは、この世の全てを遍く司るモノ、と俺達人間に語り聞かせる。

だと言うなら、神は、この世の全てを遍く司りながら、遥か遠い昔より戦い続けてきた大魔王に従う存在を、自ら生んだことになる。

……そんなこと、本当に有り得るのだろうか。

それだって、有り得な────

──…………いや、たった一つだけ有り得る。可能性として。

……そんな風に、考えて考えて、メタルスライムを睨み付けつつ考えて。

やがて、空腹と疲れに負けた俺は、その場にぶっ倒れた──らしい。

空腹と疲労と頭の使い過ぎで、滅多には人の通らない田舎道の真ん中でぶっ倒れた筈の俺が、目を覚ました時にいたのは、見たことも無い、凄く豪華な部屋だった。

どう見ても、何処かの王城の客間みたいな感じで、起き上がって直ぐ、何でこんな所にいるんだ? ってキョロキョロしてたら、付き添ってくれてたらしい医者が誰かを呼びに行って、あっと言う間にやって来た相手に、口開くよりも早くぶん殴られた。

──俺をぶん殴った相手は、幼馴染みだった。

一発喰らった後にも二、三発引っ叩かれて、ものすっごい勢いで泣かれて、でも彼女は何も言わずに何処かに消えてしまって、困り果てていた間に夜が来て、と同時に彼女が戻って来て、何でか戦士の彼も賢者の彼も一緒で、二人からも、それぞれ一発以上ぶん殴られて。

他ならぬ仲間達にボコボコにされた後、やっと、とっても上等の飯喰わせて貰って、事情も教えて貰えた。

────俺が、三人をも残して姿を消した後、戦士の彼と幼馴染みは、俺を捜しに旅立ったんだそうだ。

一緒にじゃなくて、別々に。

その方が、効率がいいと思ったから、らしい。

賢者の彼だけはラダトームに残ったけど、彼も彼で、上の世界に戻る方法を探すのと、戦士や幼馴染みとの連絡役兼ねて、そうすることにしたそうで。

丁度、俺がムーンブルクの西の外れを彷徨ってた頃。

手掛かりを辿って俺を追っ掛けて来た幼馴染みの彼女が、何の行き違いか、俺を追い越す形で、一足先にムーンブルク王都へ入った。

で、知らぬ間に先回りしてしまったムーンブルク王都で、勇者ロトと共に大魔王ゾーマを討った仲間の一人であり女賢者だ、と知られてしまった彼女が、ムーンブルク王の招きを受けていた頃、俺は、偶然、あの田舎道を通りすがった親切な旅人に拾われた。

その親切な旅人が、行き倒れ掛けてた俺を運び込んだのは、西の祠と呼ばれてる、ムーンブルクの関所の一つだったからか、俺にしてみれば間の悪いことに、俺の正体に勘付いた役人がいて、姿を消した筈の勇者ロトがムーンブルクに、と気付いたそいつは、意識飛ばしたまんまの俺を引っ担いで王都までルーラで飛んだ。

そこで、担ぎ込まれた俺と、国王陛下に引き止められてた幼馴染みとが先ず行き会い、彼女は、目を覚ました俺をぶん殴ってから急遽ラダトームに飛んで、賢者を連れて戦士を拾いに行き、今度は三人でムーンブルクへ飛んで。

…………と、まあ、そう言う訳で、俺達四人の再会は果たされることなって、俺は、三人から寄って集ってぶん殴られて、食事と事情説明が終わった後には、掛け値無しに偉い勢いで説教を喰らった。

どうして一人で行った、とか。何をしてた、とか。行くなら行くで理由くらい打ち明けてからにしろ、とか、散々に叱られた。

御免、と頭下げても許して貰えず、結局、行方を晦ませた理由も、それから数年何をしていたのかも、洗い浚い白状させられて…………、そうしたら、皆、泣いてくれた。

そこまで思い詰めてたのか、って。

そんなこと、もう気にしなくていい、そんな考え、もう手放していい、って。

……だから、俺も泣いた。みっともないなあ……、なんて思ったけど、泣いてしまった。

追い掛けてくれてたのが、俺を想ってくれてたのが、凄く凄く嬉しくて、一人きりで抱えてたことを吐き出せたのに安堵して、数年もの孤独が癒された気もして、泣くしか出来なかった。

──但。

仲間達に何を言われても、どう説得されても、俺は、抱えたことを手放さなかった。

ムーンブルク王の厚意に甘えて、長らく王城に滞在させて貰って、その間、何度も何度も四人で話し合ったけど、俺には、俺の抱えた想いや考えを、妄想、と切り捨てられなかった。

この世界中を彷徨う旅を、尚も続けるつもりだった。

……仲間達と再会し、幾晩も話し合っていた内に、俺の中には、決意が生まれてた。

もう、諦めるのは止めだ、と。

一度は諦めと共に受け入れた、俺の血に課せられた運命さだめに、何が何でも抗ってやる、と決めた。

……何故って、辿り着いてしまったんだ。

俺と幼馴染みが再会した日は、未だ麗らかだった、長いムーンブルクの春が、夏に替わるまで。

常春に近い気候なあの王都でも、ああ、暑いと思う日が増えたな、と感じるまで、あの綺麗な王都で過ごしていた間に、俺は『答え』に辿り着いたんだ。

…………最初の方にも書いたけど、子供の頃、俺は、アリアハンの悪ガキ連中と一緒になって棒切れ振り回して遊んで、幼馴染みに引き摺られては教会に行って、居眠りしながら司祭様の説教を聞いた。

それなりに、神様の話は身近だった。

神話も、神の言い伝えも、精霊のお告げも、精霊達が語ったと言われていたことも、俺だけじゃなく、誰もが素直に信じてた。

意識せずとも、神も精霊も、俺達の毎日の根っこに在って、それを疑うなんて思ってもみなかったし、想像も出来なかった。

でも、俺は、そんな神様や精霊達を疑い始めた。

不審しか抱けなくなってた。

この世の全てを遍く司ると言われる神を、信じられなくなった。

……何を馬鹿なことを、と仲間達には繰り返し言われた。

俺は、知らぬ間に勇者の運命に疲れ果ててしまったんだ。だから、とも言われた。

けれど、気付いた。

勇者となったからこそ気付いた。

この世の全てを遍く司りし神こそが、魔物達も、大魔王ゾーマと言う存在も、闇そのものすらも、世界に産み落としたんだと。

俺の、この考えはきっと正しい、と。

そして、『答え』である、と。