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										 セッツァーさん同様。
 判らないことは知っている者に聞くに限る、知りたいことが書いてある本を読むに限る、と云う思考を、エドガーさんも持ち合わせている。
 所詮素人が、専門家に叶う筈がない、と云うのが、エドガーさんの持論だったりする。
 なので。
 セッツァーさんと、基本的な考え方がとても良く似ていらっしゃるエドガーさんは。
 セッツァーさんが、色町の片隅にて、女衒の親分さんに教えを請うている頃。
 とっとっとっ……と、軽快に己が城内を歩いて。
 厳かーな雰囲気に包まれている、神殿を訪れた。
 蛇足ながら。
 彼が赴いた場所は、フィガロ城の中にある神殿である。当たり前のことだが。
 と云うことは、フィガロ、と云う国の国教の、そこは総本山に当たる。
 んで以て、その神殿で一等偉いのは、彼のばあやである神官長だ。
 …………上記のことを踏まえて、先に進んでみよう。
 ああ、その前に、何故、エドガーさんが己が悩みの解消の為に、そこに赴いたかと云うと。
 一一一一同性間性行動の実体は、先日侍医に尋ねたから、未だに朧げな箇所があるとは云え、一応は、判った。
 で、その行為に、女性に例えるなら、破瓜に等しい障害が付きまとうのも知った。
 更には、誠に不本意ながら、破瓜的な障害を受けるのは恐らく、恋人ではなくて自分の方だろうな、と云う未来予測も認識した。
 ならば、もしもあるのなら自分は、破瓜の夜を迎える女性が嗜んでおかなくてはならない作法を一一あくまでも、あるのなら、だが一一知っておかなくてはならない。
 何故って多分、それにとても近しいことを、自分も恋人に望まれるんだろうから。
 ……と云う思考が、彼の脳内を巡ったからだ。
 だから彼は、己がばあやの元を訪れたのだ。
 …………何でか? どうして、その思考が、ばあやの元を訪れる、と云う行動に直結するのか?
 仕方ない、お答えしよう。
 一一ばあやは、『ばあや』、である。彼にとって。
 27と云う年齢に達している彼の、『ばあや』。
 女性の年齢に関することをあげつらうのは誠に申し訳ないが、則ち、神官長はそれだけ、齢を重ねている。
 ま、一言で云うならば、先達って奴。
 だから、今はもう、フィガロ王家にその習慣はないけれど一一エドガーさんが廃止したから一一、未だこの城に、『夜伽』の女性がいた頃のことを、彼女は良く知っている、と云うのを、エドガーさんは知っている。
 因みに何で彼が、夜伽を廃止したかと云えば、必要性がなかったからだ。女に不自由してなかったから。
 んで、彼女の立場だったら、そんな女性達に『教育』を施していたかも、と云うのも、エドガーさんは知っている。
 則ち。
 エドガーさんの中で、ばあやは。
 彼が今、最も知りたいことを知っているだろう人物リストの、トップに記載されているのだ。
 なので、彼がばあやの元を訪れたことには、何の不思議もない。
 …………あくまでも、エドガーさん的思考の上では、だが。
 一一だからして。
 エドガーさんの祖国フィガロの国教の、ここは総本山、な神殿に彼は踏み込み。
 とても真面目な顔をして、その日のお務めをこなしていたばあやを捕まえ。
 何か? と首を傾げたばあやに、それはそれはにっっっっこりと、微笑み掛けたエドガーさんは。
 破瓜の夜を迎える女性が持たなければならない心構え、と云う奴を、どストレートにばあやに尋ねた。
 …………その時。
 ばあやが物凄く嫌そうな顔をしたのは、云うまでもない。
 
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