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										 かつて、それらの経験者一一因みに複数一一に体験談を語って貰った処、皆が皆、口を揃えて、「体質次第」と宣った。 
										 お薬に、レッツチャレンジ! と、本当に手を出してみた後、どうなるのかは、各人の体質次第だ、と。 
										 どうにもこうにも合わなかった者は、一晩中吐いてるし、スカンと決まってしまった者は、一晩中笑い転げているし、別の意味で合わなかった者は、何を試してみても素面のままなんだそうな。 
										 ……で。 
										 夕べ、そこまで『物騒』な代物とは知らず、お薬に手を出してしまったセッツァーとエドガーの二人のような反応を示した場合、翌朝は大抵、地の底まで沈むのが、パターンなんだとかで。 
										 そんな、物凄く狭い世界の統計が示す通り、馬鹿と云うか、『痛い』と云うか、何と申し上げたら良いのやら、な夜が明け、朝と云うには遅過ぎる時間帯、やっとこさ目覚めを迎えたお二人さんは。 
										「気持ち悪い…………」 
										「……だるい……」 
										「吐き……そう……」 
										「動きたくねえー……」 
										 口々にそう言い合い、真っ青な顔をして、ぐっちゃぐっちゃのドロッドロな惨状のままある寝台の中で、頭を抱えてのたうちまわっていた。 
										 彼等の場合、自らの意志を持ち、進んでお試し、と相成った訳ではないので、若干、同情の余地は残されているが……まあ、これも又、自業自得なんだろう。 
										「オエ…………。み、水ぅ……」 
										「自分で取れば…………」 
										「出来ねえから、頼んでんだろうが……」 
										「……私だって、動けない……」 
										 が、それでも。 
										 暫くの間、手負いの獣のように、じーーーっと息を詰めていたら、少しずつ、身体の方は回復を見せ始め。 
										 のそのそ、のたのた、床へと這い降りた彼等、脱ぎ散らかしたままのシャツを弄り、ぐずぐずと身に付けて。 
										「…………ねえ、セッツァー」 
										「……何だ?」 
										「夕べ、何が遭ったんだと思う……?」 
										「一一さあな。二人して酒飲んで……お前がレストルームに行った辺りまでは、覚えてるんだが……」 
										「私も、その辺までは、記憶にあるんだけどね……。そこから先が、どうにも……。やけに、気分が良かったこととか、幸せがどうのって云う話をしていたような覚えはあるんだけども……。そこから先、何かどうして、こうなったんだろう……」 
										「…………さあな……」 
										「何がどうして、って云うか……。何をどうすれば、こんな惨状になるんだ? この部屋は。一一夕べ……夕べ……夕べ? あー……思い出せない……」 
										「夕……べ……一一。ああ、お前と抱き合ったような覚えはあるぞ。それは、何となく覚えてる」 
										「抱き合った……って、どう云う風に?」 
										「……さ、あ……」 
										 一一一一だらしなく、シャツを羽織ったまま。 
										 セッツァーはどかりと、エドガーはちんまりと、床の上へと直に座り。 
										 腕を組んでみたり、こめかみを押さえてみたり、首を捻ってみたりして、何とか、昨夜の出来事を、二人は思い出そうとしてみたけれど……結果は玉砕だった。 
										「あーもー……。何故なのか、それは判らないけれど。物凄く、悲しくなって来た…………」 
										「……奇遇だな、俺もだ。理由なんぞに心当たりはねえが、どうしようもない程、虚しいのは何故なんだ?」 
										「そんなの、私が聞きたい……。一一何で? どうしてこんなに、落ち込むんだ? 私は」 
										「俺に聞くんじゃねえ……」 
										 懸命に、記憶の糸を手繰っても、夕べの出来事を思い出せず。 
										 段々と二人は、どどめ色に落ち込み始めた。 
										「何をどうしてみても、駄目なのかなあ……私達は……」 
										「……かもな……」 
										「全てのことが、駄目で、どうしようもなくって、終わり、なのかなあ……」 
										「…………そうかも知れねえな……」 
										 一一この現象。 
										 端から見れば、もう勘弁して下さい、と云いたくなる程にハイテンションだった昨夜の、単なる反動なのだけれど。 
										 そんなこと、二人は知る由も無いので。 
										 頭上に、深く暗い灰色をした、ドでかい暗雲を垂れ込ませながら、もう、この世の終わりは間近い、そんな雰囲気になって、彼等は揃って項垂れた。 
										「もー……どうしよ……。も、何も彼もが嫌だ……」 
										「まあな。……だが、そうは云ってもな……」 
										 止める者も、宥める者も、いない中。 
										 激しく激しく、彼等は落ち込み。 
										「……いっそ、死んじゃいたいかも」 
										「おいおい……。まあ、気持ちは判るが……」 
										 非常に物騒な愚痴までもを、エドガーもセッツァーも、言い出し始めたが。 
										「一一…………あっ」 
										「ん? どうした?」 
										「……もっ……」 
										「…………も??」 
										「物凄く、お腹痛いっ!!」 
										 唐突に感じた腹部の痛みに、がばっとエドガーが床から立ち上がったことにより。 
										 彼等の落ち込み合戦は、なし崩しの終止符が打たれた。 
										  
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